アッカド時代の円筒印章:
「アンズーの審判」 概要 古代メソポタミア、アッカド王朝時代(紀元前2350年〜2200年頃)の円筒印章の傑作です。
ここまで大型の円筒印章で表現力豊かな作品は滅多に見ることができません。
神話の劇的な一場面である「アンズーの審判(あるいはアンズーの連行)」が、非常に精緻かつ力強い彫刻で表現されています。
〜描かれている場面の詳解〜
この印章の主題は、最高神エンリルの所有する「運命の書板(天命のタブレット)」を盗み出し
世界を混沌に陥れた怪鳥**アンズー(Anzu)が捕らえられ、知恵と水の神エンキ(Ea)**の元へ連行され裁きを受ける場面です。
印影(粘土に転がした図)の左から順に、以下の登場人物が配置されています。
英雄ギルガメッシュ(あるいは従者) 左端に立ち、この緊迫した場面を見守る人物。
カタログ解説ではギルガメッシュとされています。
水と知恵の神 エンキ(アッカド名:エア) 玉座に座る主神。
両肩から水流(チグリス川とユーフラテス川を表す)が湧き出し、その中を魚が泳いでいるのが特徴です。
彼はこの審判の裁判官役を務めています。
宰相 ウシュヌ(アッカド名:イシムド) エンキ神の前に立つ、二つの顔を持つ(双面)神。
エンキの忠実な宰相であり、罪人の到着を主人に告げています。
怪鳥 アンズー 鳥の身体(あるいは翼)を持つ姿で描かれた罪人。
後ろ手に縛られ、連行されています。
英雄神 ニヌルタ 右端でアンズーを捕縛し、連行している神。
神話においてアンズーを討伐し、タブレットを取り戻した英雄です。
〜美術的特徴と材質 様式〜
アッカド時代の印章は、それまでのシュメール初期王朝時代と異なり、
筋肉の隆起や物語性を重視した「写実的でダイナミックな表現」が特徴です。
本品もその特徴を色濃く反映しており深い彫り込みと各キャラクターの生き生きとした姿勢が見て取れます。
材質: シャコガイ(Tridacna)の芯。
フランス語の解説にある「Columelle de bénitier」はオオシャコガイの貝殻の厚い部分を指します。
石材ではなく、希少な貝殻を用いることで、美しい乳白色と滑らかな質感を実現しています。
サイズ: 高さ4.6cm、当時の印章としては大型で大変立派な部類に入る例外的な作品になります。
歴史的背景
この図柄は、ルーヴル美術館に所蔵されている有名な印章(AO 2129)と非常に構図が似ており、
当時の神話体系や王権思想(神によって秩序が保たれることの象徴)を理解する上で貴重な資料です。
パリの古代美術商
ギャラリーギルガメッシュのコレクションにこの円筒印章が掲載されています。

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円筒印章は古代メソポタミアにおいて貿易や行政だけでなく人々の日常生活に欠かせない道具でした。
現代でいう「印鑑」と「身分証明書」と「お守り」を兼ねたような非常に重要な役割を果たしていました。
円筒印章が日常生活でどのように使われていたか主な用途を解説します。
日常生活における円筒印章の役割
円筒印章の最大の特徴は粘土に*転がす(ロールする)ことで彫り込まれたレリーフを連続した図像として残せる点です。
1. 個人の「署名」と身分証明
円筒印章の最も重要な役割は現代のサインや印鑑と同じく個人の同一性を証明することでした。
契約・公文書: 土地の売買、借金の証文、結婚契約書などの粘土板文書の最後に印章を転がすことで、
「私はこの内容に同意します」という署名の役割を果たしました。
私文書: 個人的な手紙やメモにも使われ、誰から送られたものかを証明しました。
権威の象徴: 印章を持つこと自体が、その人物が自由民であり、
財産や法的権利を持つ社会の一員であることの証明でもありました。
2. 物品の管理と封印
家庭や倉庫、貿易の場で、中身が不正に開封されていないことを保証するために使われました。
保存容器の封印: 食料や油、穀物などを入れた壺(ジャー)や、
輸送用のバスケットの蓋を粘土で封し、その上から印章を転がして封印しました。
印章が破られていれば、誰かが中身に触れたことがすぐにわかります。
倉庫や扉の施錠: 倉庫や重要な部屋のドアに粘土を貼り付け印章を押すことで
許可なく開けられていないかを確認するセキュリティシステムとして機能しました。
3. 魔除け・護符(アムレット)としての役割
円筒印章は、単なる道具ではなく、アクセサリーとしても常に身につけられていました。
宗教的保護: 印章に刻まれた神々や神話の場面(例えば、ご提示の「アンズーの審判」のような図像)には
持ち主を悪霊や災厄から守る力があると信じられていました。
ファッション: 多くの場合、紐を通して首から下げたり、
ピンで衣服に留めたりして、護符(お守り)として肌身離さず持ち歩かれていました。
4. 社会的地位の表示
印章の素材や彫刻の精巧さは、持ち主の富や社会的地位を反映していました。
貧しい人々は安価な石や陶器の印章を使っていましたが富裕層や支配層は
今回の円筒印章のような*希少な貝(シャコガイ)やラピスラズリ、
アメジストなどの貴石を用いた精巧な印章を持っていました。
このように、円筒印章は「本人確認」「契約履行」「財産保護」「信仰」といった、
古代メソポタミアの社会基盤を支える、まさに命綱のような存在だったと言えます。
参考例 他の一般的なアッカド円筒印章
そのために円筒印章のクオリティは用途によって様々でした。
日常で使われる印章は現存数も多くサイズも小さく彫りもシンプルなものになります。
今回ご紹介している円筒印章は例外的に大型で美しく
表現力も素晴らしい特別に作られた高価な作品であったことが伝わってきます。