大変希少な指輪です。
楕円形のベゼルには、オレンジがかった赤のカーネリアンのインタリオがセットされています。
モチーフは ローマ皇帝の凱旋 です。
このインタリオには複数の人物が現れる複雑な場面が彫られており、
馬に乗ったローマ皇帝が敗れた戦士を押しのけて凱旋する様子が描かれ、
僅か2cm×1.6cmの小さなインタリオ ですが
ルーペで覗き込むとまるで大きな壁画のような迫力を感じます、
驚異的に精緻な彫りが素晴らしい18世紀のインタリオだと思います。
また、この作品に関する古い資料が残っており、
このインタリオ を彫った宝石彫刻師は王に謁見ができる人物であった可能性が非常に高いことがわかっています。
Cabinet des Médailles
ヴァレリオ・ベッリ・ヴィチェンティーノ 作 インタリオ
上の見事なインタリオは ヴァレリオ・ベッリ・ヴィチェンティーノ(1468年~1546年頃)が彫ったもので、
フランス王室のコレクションとして、キャビネ・ド・メダイユに収蔵されています。
資料 1
DES PIERRES GRAVEES DU CABINET DU ROY
1750年 発行
この資料1はマリエットによってフランス王室のカメオやインタリオのコレクションがまとめられたもので、
そこにも、ベッリのインタリオがコレクションとして掲載されています。
資料 2
A DESCRIPTIVE CATALOGUE OF A GENERAL COLLECTION OF ANCINET ANS MODERN ENGRAVED GEMS,
CAMEO AS WELL AS INTAGLIOS,
1791年製作
この資料2はタッシーによって世界の美しいインタリオ やカメオをまとめたカタログで1791年に製作されました。
本来は掲載されているインタリオやカメオから型どったプリントと共にカタログの説明文を読むように作られており、
一部の限られた王侯貴族に紹介されたものです。
カタログ自体は残っていますが、プリントは現存するものは少ないです。
この本の7830番、赤線で囲んだ所にもベッリのインタリオ の説明が掲載されています。
この二つの資料と、今回ご紹介しているコーネリアンのインタリオは細部まで大変よく似ています。
ここまで細部まで似せて彫るには彫刻師が参考として資料を見ていたことが伺えますが、
この宝石彫刻師が資料としてキャビネ・ド・メダイユに収蔵されていた実物を見ていた可能が高いです。
それは、、、
ソレイユでご紹介している18世紀のインタリオ と
マリエットによって紹介されたインタリオ の図は細部で微妙な違いがあります。
ソレイユの18世紀のインタリオ
1 ローマ皇帝が靴を履いている
2 馬の尾がつながっていない
3 男性が王冠をかぶり枝を持っている
マリエットの図
1 ローマ皇帝が靴を履いていない
2 馬の尾がつながっている
3 男性が王冠をかぶっておらず、月桂樹の冠を持っている
このことから、宝石彫刻師はマリエットの資料は使っていなかったと思われます。
ソレイユの18世紀のインタリオ
1 ローマ皇帝が靴を履いている
2 馬の尾がつながっていない
3 男性が王冠をかぶり枝を持っている
キャビネ・ド・メダイユのインタリオ
1 ローマ皇帝が靴を履いている
2馬の尾がつながっていない
3男性が王冠を被り枝を持っている
18世紀のソレイユのインタリオ とキャビネ・ド・メダイユのインタリオ には表現にズレがありませんので、
ここまで類似させた作品を作ることができた宝石彫刻師は
キャビネ・ド・メダイユに収蔵されていた王のコレクションのインタリオ を参考に見ることが出来ていた可能性が高いです。
恐らく、当時、注文や贈答品など、
何らかの理由でローマ皇帝の凱旋のインタリオ のコピーを作る必要があっただろうと思います。
そんな時に王のコレクションの実物に触れることができる位置にいた宝石彫刻師は
素晴らしい技術を持った人物であったでしょうし、
実際の仕上がりの美しさを見ても納得できるのです。
類い稀に精緻な彫りのインタリオ 、
優れた腕を持っていた18世紀の宝石彫刻師の作品です、
是非、お問い合わせくださいませ。