大変希少なメメント・モリのゴールドリングをご紹介致します。
表面がローズカットのように細かくカットされたステュアートクリスタルがセットされた
美術館級のモーニングリングです。
クリスタルの表面は非常にまろやかで水面のような優しい輝きを放っています。
ロッククリスタルの内側には布のように細かく編み込んだ濃い茶色の髪の毛が敷き詰められ、
中心には可愛いドクロのモチーフ、M・Gのイニシャル、その周りを金色がかったオレンジの紐が囲んでいます。
17世紀初頭から19世紀終わりにかけて、裕福な人々は自分の死後に記念の文字や装飾が入ったモーニングリングを作り、
それを友人や家族に配るよう遺言に残すことがありました。
このデザインは17世紀に遡り、
ショルダーには植物のモチーフが彫り込まれ、ここにはかつて黒のエナメルが施されていました。
楕円形のベゼルには編まれた毛髪が納められていますが、
大変細かくキツく編み込まれている為に布にしか見えません。
ペイントされた小さなエナメルの頭蓋骨と、金線細工でM.C.のイニシャルが入れられ、
すべてがファセットクリスタル(『スチュアートクリスタル』として知られています)で覆われています。
動画の方が実物の美しさを感じて頂けますので
是非、ご覧になって下さい。
指輪の内側には、1710年12月23日に24歳で死去した故人のイニシャルが次のように刻まれています。
” M.C. obiit 23 December 1710 aetate 24 ”
ベゼル裏は黒と白のエナメルが施されており、エナメルが数カ所欠けていますが、保存状態は大変良好です。
メメント・モリ リングとモーニングリングの境界はある程度曖昧です。
「メメント・モリ」リング(ラテン語の動詞『memini』と『morior』に由来し『死の事実を記憶せよ』という意味)は、
死のイメージを目の前に置くことによってそれを嵌める者の心を死に備えさせることを目的としています。
一方モーニングリングは、故人の記憶を偲ぶためのものです。
15世紀末ごろから、頭蓋骨、骨、骸骨、骨壺の形で表現された死が特定の個人の思い出と関連付けられ、
しばしば、その人物の名前やイニシャルが、亡くなった日と年齢とともに指輪に彫り込まれてきました。
最も古いもの(15~16世紀)では頭蓋骨がプレートのメタル部分や大型の指輪に彫られ、
時に白いエナメルでこれを引き立たせることもありました。
17世紀には頭蓋骨が特に強調され指輪のベゼルに用いられることもありました
(例えば、1974年にロンドンで出版された『British Rings』(C. Oman著)85~86ページに掲載のイギリス公式コレクション。
また『Memento Mori』とはっきり刻まれた大英博物館の見事な指輪。
こちらは、1993年パリで出版された『Les Bagues』(D. Scarisbrick著)109ページにイラストで描かれています)。
17世紀初頭から裕福なイギリス人はモーニングリングを作製して
友人や家族へ贈る為の資金を遺言のなかに記しておくようになりました。
これらはごくシンプルなリングにエナメルをくるりと一周施したものが多く
故人の名またはイニシャルと、誕生した年および死没した年が彫り込まれており、
多くの場合エナメルは黒でしたが、子どもや独身の場合は白いものもありました、
スチュアート朝時代(1603~1714年)、最も高価なモーニングリングには、
石がはめ込まれるか、棺などのシンボルや金糸で書かれたイニシャルを
ファセットクリスタルで覆ったものがベゼルにあしらわれました。
多くの場合、背景には編まれた毛髪が納められていました。
こうして、指輪は小さな遺物箱のような存在になったのです。
この頃は、頭蓋骨もまだモチーフとして使われていましたが、
以前よりは目立たなくなり、今回ご紹介しているリングのように
ベゼルがクリスタルに覆われ、毛髪がセットされたアクセサリーとして使われる程度でした。
けれど、追悼や思い出という概念の前に『メメント・モリ』の概念が色あせてしまったとしても、
それが完全に消滅することはありませんでした。
1731年 メメントモリ エナメル 骸骨 リング
18世紀前半の名高い「骸骨リング」などは、
指輪の周り全体に、黒のエナメルを背景として、骸骨が控えめにあしらわれています。
「モーニングリング」において、死そのものを切り離して故人を偲ぶということに主眼が置かれるようになったのは、
18世紀後半に入ってからでした。
故人の髪を編んだもの、またはカットして模様を描くように糊付けされたもの、
故人のミニアチュールやシルエット、
死を現実的に表すものではなく、砂時計やクロノスの時の経過、
残された者の悲しみを表すモチーフである、しだれ柳、壊れた柱、オベリスク、涙を流す女性、猟犬、ツタ・・・
などが指輪に使われるようになっていったのです。
この1710年の指輪は類似品が美術館へ所蔵されるほど真に価値があり大変珍しく人気が高いものです。
アンティークゴールドの古い艶とエナメルのわずかな欠けは、
これが本物であり、長い間使われていたことを示しています。
24歳という若さで亡くなった故人を偲んで作られたことを考えると、感慨もひとしおです。
スタイル的には、17世紀末から18世紀初頭に相当します。