カメオ 哲学者ディオゲノス 16世紀
まるでレリーフのような類稀な描写力のカメオです。
この作品は誰もが美しいと思うような女神や神話のシーンが彫られているわけではありませんが、その代わりに時代を反映した深い精神性を表現したカメオ作品なのです。
髭を生やした若くはない男性の姿、力なく何かをささえている両手、あばらの浮き出た上半身、何故この男性像がモチーフに選ばれ、これだけの素晴らしい表現力で生み出されたのかを考えてみましょう。
これだけの例外的な作品が作られた背景には必ず時代とリンクした理由があるのです。
このカメオが作られたルネサンスという時代の前に中世がありました。
中世はペストの蔓延などで地域によっては死亡率が約5割を越えるなど、親しい人の命が目の前で簡単に失われていた時代です、必然的に死と隣り合わせの生活 を送るようになった人々はメメント・モリ(死を忘れるな)という言葉と共に、神を深く敬いながら、人間はいつか必ず死ぬ儚い生き物である事を意識しながら 過ごしていたのです。
中世の後に到来したルネサンスでは、常に死を思い神を敬うメメント・モリではなく、宗教的な戒律に縛られなず、神を恐れず自由な精神を重んじるリベルタンが登場します。
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リベルタン
とても写実的で特殊なこのカメオは特定の人物をモチーフにして作られた作品であると言えます。ここまでの特別な描写には意味がない方が不自然ですから意味があると考えるべきです。
ルネサンスには古代ギリシャ時代の哲学者をモチーフに選ぶ事がありました。
メメントモリの思想からリベルタン的な思想へ以降したルネサンス、その時代背景やカメオの描写から考えると、モチーフとして選ぶのに十分に有名な人物、古代ギリシャの哲学者ディオゲネスであると言えるでしょう。
ディオゲネスは社会常識や習慣にとらわれない自由な精神の持ち主だったのでリベルタン的な思想と重なる部分があるのです。
このカメオの注文主は女神や神話などの誰が見ても美しいと思える様なモチーフを選びませんでした、そこから注文主自身の思想や美意識が常識にとらわれない特別な感覚であった事がわかり、彼もリベルタン的な思想の持ち主であったと言えます。
真横。
裏面。手のひらに載せると大きくてずしっと重いカメオ作品です。
このような大型のカメオは身に着けるジュエリーとしてではなく、当時は家具などにはめ込む為の作品でした。
この写真はファッションデザイナーの故Yves Saint-Laurent 氏のカメオコレクションだったものの一部です。このように大型のカメオに美しフレームをつけて壁にかけて楽しんでいたようです。
ご希望の方にはカメオ用の美しいアンティークのフレームをお付け致します。