バッカス カメオ 17世紀初期
17世紀初期の大型のカメ オです。バッカスにまつわる神話の一部が表現されています、大きさは手のひら程もあるので、カメオジュエリーとしての作品ではなく、家具などの装飾の一部 としてはめ込まれていた作品でしょう。あまりの贅沢さに当時の貴族階級の芸術的感覚の素晴らしさに心打たれます。
絵画のような表現力と安定感に長けた構図は、贅を尽くして作られたであろう家具類の装飾に相応しい出来映えです。このカメオの他にも同じサイズの複数のカメオが装飾されていたと考えられます。
この大型の素晴らしいカメオは美術的価値、歴史的資料価値としても非常に優れていますので、美術館に所蔵されているべき作品であることは間違いはありません。
そのような作品をガラス越しではなく実際に時空を超えて手に取れる喜びは早々感じる事が出来るものではないでしょう。
バッカスは神ゼウスと人間の娘セメレーの子供です。
ゼウスの妻ヘラの嫉妬により、バッカスを妊娠していたセメレーはヘラの策略によりゼウスの雷を不本意に受けて死んでしまいますが、ゼウスはバッカスを自らの太ももに臨月まで隠し、誕生後もヘラの目の届かない森の奥に隠し、森の精ニンフやシレヌスに養育を託しています。
このカメオはそんな場面を表現しています。
まだ幼いバッカスは岩に腰掛けたシレヌスに抱き上げられ、シレヌスの後ろにはニンフがバッカスのアトリビュートである葡萄を掲げています。
カメオに入るわずかなヒビは気にしてはいけません。17世紀のカメオとして当然のコンディションなのですから。それよりも、このカメオの芸術品としての素晴らしさの方をじっくりと感じて下さい。
三人の足下にはバッカスのアトリビュートの豹が彫られています。
左端の柱の上に男性が表現 されています、これはプリアポスです。プリアポスは通常男性器を司るシンボルとして男性器と共に表現されますが、17世紀はプリアポス神を表現する際に男 性器を表現することがあまりありませんでした。プリアポスはディオニソスとアフロディーテの子供とされています。
木には葡萄の蔦が絡まっています。
葡萄と豹のアトリビュート、セレヌス、ニンフ、プリアポス達がこの赤子がディオニソスである事を総合的に示唆しているのです。
部分拡大。
このカメオはフランスかイタリア、どちらで作られたか定かではありませんが、
女性の髪型からフランスで作られた可能性がより高いでしょう。
木の枝部分拡大。
斜め右。
斜め左。
これだけの素晴らしいカメオがごくごく薄い石に彫られている事に驚きます。薄さを感じさせない立体感です。
裏面。