古代美術 古代ローマ1世紀 インタリオ アメジスト マーキュリー
古代ローマのインタリオの素材としては主に、
コーネリアン、カルセドニー、ジャスパーなどがよく見られますが、
アメジストのインタリオは希少性が非常に高く、
古代ローマのインタリオの約1パーセントのみがアメジストで出来ています、
だいたいはインド産の石です。
このアメジストの色合いは、同じ紫でも場所によって濃淡に差があり、
味わい深さに溢れています。
さらに、水晶やシトリンのように結晶化されたアメジストは、
アゲートのような石よりも彫刻が難しく、アメジストは腕の良い彫刻家のみが扱えた石です。
この時代の腕の良い彫刻家は、約一ヶ月をかけてこのようなインタリオ一つを仕上げていたのです。
今回の作品は、そういった意味で非常に良い例です。
石の質、石の形 (Type C4),、石の磨き、題材、彫刻のスタイル、
全てが1世紀初期のユリウス・クラウディウス朝を思わせます。
〜 1585年 マーキュリーとアテナ 〜
この美しい石に選ばれたモチーフは、
ジュピター(ゼウス)の息子で伝令の神であるマーキュリー(ヘルメス)です。
マーキュリーは神々の中でもユニークな神で、
主な伝令の神としての役割以外にも多くの顔を同時に持っており多くの人々に愛された神です。
そして、このインタリオにはマーキュリーのアートリビュートである羽の生えた靴、財布、ケリュケイオンの杖が彫り込まれています。
大きさは一円玉と比較するとこのくらいです。
どんな目的で古代ローマ人はインタリオを作ったのだろうと思うと、とても興味深いですよね。
どのようにインタリオが作られたか、少しご説明したいと思います。
テレビもインターネットも車もなく、寿命が短く病気になりやすかった、不便で危険な時代。
人々は神々の存在を当たり前のように信じて、大切な事を神託などでも決定していました、
神は人々が安心して生活する為になくてはならない存在だったのです。
ここからは、自分が古代ローマ人になったとイメージしてみてください。
例えば、、、古代ローマ人だったあなたは遠く離れた地へ徒歩で旅に出ることになりました。
徒歩の旅は危険が伴いますから、旅立ち前に占い師に会って、
旅から無事に帰ってくるにはどうしたらよいか?を占ってもらうことにしました。
占い師はあなたにこう言います。
「もし、旅を無事に終えたいのなら、まず、神々の王ジュピターに旅の加護を求めて、ジュピターのパテラ(神々の持つ丸い献酒皿)にワインを捧ぎなさい。そしてジュピターの息子である旅の神マーキュリーが、いつもあなたと共にあるように、マーキュリーのインタリオをお守りとして持っていくと無事に帰ってこれるでしょう!」
この黄金の素晴しい皿はレンヌで発見された、神々へワインを捧げる為の献酒皿パテラと呼ばれるものです。
このインタリオはリングに加工すれば、大変美しい古代ローマの夢のアメジストインタリオリングになります。
古代ローマのアメジストは人気があるので、17世紀〜18世紀の作品が古代ローマの作品と言われている場合もありますので、その事について少し説明致します。
アメジストの流行は特に紀元前1世紀〜1世紀初期の間に高まったので、1世紀を過ぎてからはアメジストのインタリオを見つけるのが非常に難しくなります。
ですが、気をつけて下さいね。
沢山のアメジストインタリオが、ヘレニスティックや古代ローマのスタイルで彫られています。だいたい17世紀か18世紀の作品にそれらを見つける事ができます。専門家には本物の古代ローマのインタリオか17世紀か18世紀かの作品の見分けは簡単にできます。
ポイントとしては、、
だいたいの17世紀、18世紀のインタリオは古代ローマのものよりも大きいのが特徴です。(古代ローマではインタリオを主にリングへセットしていたこと忘れないでくださいね。)
また、古代ローマのアメジスト自体が17世紀、18世紀のアメジストとは質が違います(何故なら古代の鉱山は17世紀、18世紀には既に存在しないからです)
石のカッティングと石の磨き方、彫刻のスタイルも違います。特に18世紀のものは道具の跡が違います。
インタリオに彫り込まれている人物の衣服と髪型も違います(例えば、アウグスティス時代のインタリオには、長いひげをはやした男性のインタリオは見つける事は出来ないでしょう。)