G.B.のサインで知られるメダリスト、ジェルマン・デバゼイユ(Germain Desbazeille, 1852–1930)によって
制作された非常に珍しい重厚な金製メダルです。
表面には彫刻家エルネスト・レヴィヨン(Ernest Révillon)が手がけたウェルキンゲトリクスの肖像が
力強い浮彫で表されています。
翼を備えた兜をかぶり長い髪と口髭を風になびかせる横顔は
古代ガリアを率いた英雄にふさわしい威厳に満ちています。
鋭い眼差しや頬の陰影、波打つ髪の一筋一筋まで立体的に彫り出され、
光を受ける角度によって豊かな表情を見せます。
兜の帯には小さなダイヤモンドが並べて留められています。
金一色の重厚なレリーフの中に控えめながらも鋭い輝きを添える美しいアクセントです。
メダルの周囲には作品を保護しながらペンダントとして身につけられるよう
爪留めの枠と大きなバチカンが設けられています。
直径29mm、重量21gという、手にするとしっかりとした重みを感じられる作品で、
20世紀初頭の彫刻芸術とフランスの歴史観を伝える美術的価値を備えています。
リオネル・ロワイエ《カエサルの前のウェルキンゲトリクス》1899年
クロザティエ美術館蔵
このメダルのモチーフのウェルキンゲトリクスは
紀元前1世紀、カエサル率いるローマ軍に対抗してガリアの諸部族を率いた人物です。
後世のフランスでは勇気と独立の精神を象徴する英雄として語り継がれました。
エルネスト・オーギュスト・レヴィヨン
《ウェルキンゲトリクス胸像》
1920年 バルビゾン 教会前広場
エルネスト・レヴィヨンは、
バルビゾンの中心部の教会の前に設置されているウェルキンゲトリクスの胸像を制作した彫刻家です。
彼はバルビゾンで暮らし同地でその生涯を終えました。

1920年に制作されたこの胸像とメダルの肖像には、
翼のある兜、長い髪と口髭、厳しく遠方を見つめる横顔など、共通する英雄的な表現を見ることができます。
さらに、このメダルは表面の美しさにくわえて裏面にも興味深い装飾が施されています。
裏面に表された情景の面白さについてご説明いたします。
メダルの裏面には小さな円形の画面いっぱいに巨石遺構や樹木、古代の道具が細密な浮彫で表されています。
画面中央には紫色で囲った1のドルメンが大きく配され、
その奥には青色で囲った2のカルナックの立石群が広がります。
左側を囲むように緑色の5の樫の木が枝を伸ばし、
その周囲には赤い色で囲った3と4の新石器時代の斧や農耕具が組み込まれています。
奥行きのある風景と象徴的なモチーフを、直径29mmという限られた空間に凝縮した非常に興味深い構成です。
写真に記した番号は、次のモチーフに対応しています。
1「ドルメン」と呼ばれる巨石墓(紀元前3000年頃)
2ブルターニュ地方のカルナック巨石遺跡に並ぶ、小さな立石「メンヒル」(紀元前3500年頃)
3新石器時代の斧(紀元前4000~2500年頃)
4新石器時代初期の石に刻まれた農耕具(紀元前4500~4000年頃)
5ドルイドにとって神聖な木とされた樫の木
繊細な彫りでモチーフが同時に表現されていますが、
実はこれらは実際には異なる時代に属したモチーフでした。
なぜ異なる時代に存在したモチーフが一つにまとめられているかというと、
20世紀初頭にはケルト人は巨石文化の時代に暮らしていたと考えられ、
巨石遺構はケルト人の祭司であるドルイドたちの神殿のようなものだと想像されていました。
しかし、ウェルキンゲトリクスが生きたのは紀元前1世紀であり、
ドルイドが存在した時代もドルメンやカルナックの立石群が築かれた新石器時代とは大きく隔たっています。
巨石文化とケルト人との間に直接的な結びつきはなく、
この裏面図は歴史的に正確な古代の情景というよりも、
フランスの遠い過去に対して20世紀初頭の人々が抱いていた、
ロマン溢れる「古代ガリア」のイメージを映し出したものといえます。
その時代ならではの歴史観まで読み取れる点も本作の大きな魅力です。
フランス1860年〜1880年頃
18k 53cm 6.8g アンティーク ゴールド チェーン ネックレス