紀元前1450年〜1350年頃にクレタ島で作られたミノア文明のシールストーンインタリオ です。
モチーフは半身半獣のミノタウロスと4つ足の動物、
そしてミノアにおいて重要であったラブリュスと呼ばれるダブルアックスが彫り込まれています。
このインタリオの彫りからは古代人の感性から生まれた
躍動感のある表現が感じられて素晴らしいですし、
類似作品がヴィクトリア&アルバート美術館や古代インタリオの専門書にも掲載されており
美術館級の作品になります。
ミノア文明は青銅器時代の最古の文明の一つであり、
紀元前3000年から1100年の間にクレタ島で栄えました。
この文明は高度な都市計画、美しいフレスコ画などの芸術品、
解明されていない文字で知られ、ミノア人は大変神秘的な存在です。
クレタ文明において重要なシンボルとしてミノタウロスがいますが、
ラブリュスと呼ばれる両刃の斧のダブルアックスもまた大変重要なシンボルでした。
このシールストーンインタリオ にはこの二つのモチーフが彫り込まれており、
クレタ島の芸術が色濃く反映されたものと思います。
このインタリオ の表現は躍動感があり大変素晴らしいものです
赤で囲んだ部分、
半身半獣のミノタウロスが上半身を後ろ側にねじったアクロバティックな姿で表現されています。
このような大胆な姿勢はミノア文明の美術品ではよく見られ、
恐らく何らかの儀式に関係するものと思われます。
このミノアのゴールドリングに表現されているように
人間も後ろ向きに回転するようなダイナミックな姿が彫り込まれています。
当時の熱が伝わってくるようです。
参考 クレタの牛モチーフのリング
また、インタリオの端の部分、赤丸で囲んだところには
ラブリュスと呼ばれるダブルアックスが彫り込まれています。
ミノアのダブルアックス
このような両刃のダブルアックスはラブリュスと呼ばれリディア語に由来していました。
ラブリュスは金属製のものが多く、
クノッソス宮殿を含む多くの遺跡から発見されています。
アーサー・エヴァンズ卿はクノッソス宮殿を「ラビリントス」と名付け、迷宮とラブリュスを関連付けました。
彼は「迷宮」という言葉が「ラブリュス」に語源を持つと考え、ダブルアックスと宮殿の関係を強化しました。
ラブリュスはミノア文明のクレタ島で一般的に見られ、
この文明において重要な位置を占めていたと考えられています。
ラブリュスは大きさも様々で、
片手で持てる小さなものから、両手が必要なほど大きなものまで見つかっています。
クノッソス、マリア、ファイストスなどの考古学的遺跡からは、
小さな奉納用のラブリュスや大きなものが多数発見されています、
ミノアのフレスコ画、印章、その他の芸術表現にも頻繁に描かれています。
特にクノッソスの「ダブルアックスの家」のフレスコ画には明らかに犠牲にされた雄牛と関連して描かれており、
ダブルアックスがミノアの雄牛崇拝、
特に雄牛の犠牲を伴う儀式に使用されたということを表しています。
未解読の線文字Aのため、ミノア宗教の詳細は謎に包まれていますが、
考古学的な証拠と後のギリシャ神話の組み合わせにより、いくつかの解釈が可能で、
宗教的シンボルとしてのダブルアックスは、
しばしば「動物の女主人」と呼ばれるミノアの女神とも関連していたようです。
この女神は両手にダブルアックスを持った姿で描かれることがあり、
ラブリュスが女神と関連付けられる場合、
女性の力や多産を象徴していた可能性もあります。
ラブリュス、またはミノアのダブルアックスは、
古代文明の文化、宗教、および儀式的慣習についての深く関連づけられており、
クレタ島の豊かな過去と人類史における重要な役割を想像させます。
その正確な意味はミノア社会の中で完全には明らかにならないかもしれませんが、
その深い影響は学者、歴史家、および愛好家の想像力を引き続き捉えており
大変魅力的な存在なのです。
ブリティッシュミュージアム ミノアシールストーン
類似作品
ルプレヒト・カール大学ハイデルベルク
類似収蔵品
今回ご紹介しているシールストーンインタリオ は
ヴィクトリア&アルバートミュージアムにも類似作品が収蔵され、
古代のインタリオ の専門書にも類似作品が掲載されています。
ラピス・ラケダエモニウス
そして、このシールストーンの魅力はモチーフだけではありません。
使われている美しい緑色の石は
ラピス・ラケダエモニウスと呼ばれる特別で魅力的な石なのです。
この石は深い緑の層と薄い緑の層がはっきりと分かれているのが特徴です。
別名スパルタの玄武岩は安山岩または火山岩の一種で、
今日ではギリシャのペロポネソス半島にあるクロケエスの村の唯一の供給源からのみ知られています。
古代の資料にはタイゲトス山にラピス・ラケダエモニウスの採石場があったことが記されています。
この石は濃い緑色で黄色から淡緑色に変化する斑点が特徴で、
時折、これらの斑点がバラ模様のように結晶化することがあります。
モース硬度計で6以上の硬さを持ち、比較的小さなブロックで見られます。
イタリア語では「porfido verde antico」、ドイツ語では「Krokeischer Stein」として知られています。
この石はネアンデルタール人によって加工されていたことが知られています。
ラピス・ラケダエモニウスはミノアのシールストーンやミノアおよびミケーネの壺の製作に使用されました。
また、ローマ時代にはオプス・セクティレ技法で作られた装飾要素(オスティア・アンティカやネミから知られる例)や、
ローマのいくつかの教会(例:サンタ・プラッセーデ教会)およびサン・ピエトロ広場の舗装にも使用されました。
その使用はパウサニアスによって言及されています。
中世には、パレルモ、コンスタンティノープル、サンティアゴ・デ・コンポステーラなどでモザイクに用いられました。
さらに、ローマとビザンチンの装飾石は18世紀まで頻繁に再利用されました。
例えば、ヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂や、地中海から遠く離れたロンドンのウェストミンスター寺院でも見られます。
クロケエスからの石は約2億3000万年前の溶岩ドームから産出されます。
石の明るい斑点は斜長石で、時間が経つにつれてアルバイトとエピドートに変わりました。
場所によっては鉄鉱物が酸化してヘマタイトとなり、赤みを帯びた色調を与えています。
同様の地質学的特徴を持つ石がサモトラキ島でも見つかり、古代には同様に利用されていました。
このように、このミノアのシールストーンインタリオ は
ミノア文明において大変重要であったミノタウロスとラブリュスという二つのシンボルを優れた彫りで表現し、
使われている石もラピス・ラケダエモニウスですので、
あらゆる意味で大変貴重で、滅多に見ることのできない美術館級の作品になのです。
古代美術がお好きな方には大変お勧めです、
是非お問合せください。