古代ローマ時代1〜2世紀のサードニクスのカメオです。
カメオは2色の層を持つ石で作られており、
下の層は半透明の金がかった茶色、上の層は白色に分かれています。
カメオのモチーフは2匹の蝶(プシュケ)に引かれた戦車に立つエロスで
エロスは左手に鞭、右手に手綱を持っています。
エロスとプシュケの神話から着想を得たモチーフですが、
蝶であるプシュケが引く戦車に乗るエロスのモチーフは例外的で魅力的です。
このような珍しいモチーフで高品質な古代ローマのカメオは大変珍しいものになります。
このカメオは19世紀の有名な美術蒐集家であったサー・ジョン・チャールズ・ロビンソン(1824 - 1913)が
所有していたことがわかっています。
ジョン・チャールズ・ロビンソン - Wikipedia
この指輪の持ち主であったサー・ジョン・チャールズ・ロビンソン(1824年 - 1913年)は
非常に有名な美術収集家であり画家でした。
彼はサウスケンジントン美術館のキュレーター、サー・フランシス・クックのコレクションのキュレーター、
そして女王の絵画のキュレーターも務めました。
このカメオは1908年に
「故ウィンダム・フランシス・クック氏コレクションの古代遺物(ギリシャ、ローマ、エトルリア)カタログ」
ロンドン 1908年 C. H. スミスとC. A. ハットン
ナンバー326、プレートXVIIIに掲載されました。
右下の矢印で示したカメオです。
この書物のC. H. スミスの解説によると、
このカメオを作った彫刻師はインタリオの制作に慣れていたと解説されています、
それは、戦車を描く際の慣習を逆転させ、運転手の左手に鞭を、右手に手綱を配置していたからです。
エロスが戦車を駆っていたり、蝶や他の動物と戯れる姿を示したカメオやインタリオはありますが、
エロスが蝶に引かれた戦車に乗っているという描写は極めて珍しいです。
また、クリスティーズによると類似作品がいくつかの美術館に所蔵されている事が解説されています。
1 大英博物館
タウンリー・コレクションに以前属していた黒いペーストのインタリオ
ナンバー1814,0704.1700
2 クンストヒストリッシェス・ミュージアム ウィーン
(E. Zwierlein-Diehl, 「古代の宝石」第1巻、1973年、ナンバー446)
3 J. ポール・ゲティ・ミュージアム
エロスが蝶の上に立ち手綱を持つガーネットのインタリオ
品番83.AN.256.7
エロスの戦車を引く動物は白鳥やネズミ、ウサギ等が表現されることがありますが、
それらは主にユーモアを与える役割を果たしているように見える一方で、
蝶はプシュケの象徴として表される存在であり、
蝶を使用することはエロスの花嫁であるプシュケへの言及を意図していたと思われます。
アプレイウスの2世紀後半の作品「変身物語」でも
エロスとプシュケの神話を最も詳しく扱っており、この二人の神の場面には人気が高まりました。
逆にプシュケが人間形態でエロスの戦車を引く描写のインタリオやカメオは下記に見られます。
1 大英博物館 ナンバー3856
2 ミュンヘンの州立コインコレクション ナンバー1169
3 ナポリの国立考古学博物館 ナンバー25840
他にはモザイク作品であればトルコにあるアンタキヤのハタイ考古学博物館のナンバー864で見つかります。
グリプティックアートにおけるエロスとプシュケの場面は、
プシュケが人間形態であれ動物形態であれ、しばしば二人が戯れる姿を描いています。
1 フィッツウィリアム博物館ナンバーB163 蝶をたいまつの上で揺らして見せている場面
2 パリ メダルキャビネット V.プラット
「Burning Butterflies: Seals, Symbols and the Soul in Antiquity」L.ギルモア編
「異教徒とキリスト教徒 - 古代から中世まで」ロンドン 2007年 p. 96
裸で縛られたプシュケの足を焼く場面などがあります。
このような画像は、エロス、すなわち愛が魂に対して行う苦痛の扱いを象徴的に表しているとされています。
〜このカメオの歴代の持ち主達について〜
ジョン・チャールズ・ロビンソン - Wikipedia
この指輪の持ち主であったサー・ジョン・チャールズ・ロビンソン(1824年 - 1913年)は
非常に有名な美術収集家であり画家でした。
彼はサウスケンジントン美術館のキュレーター、サー・フランシス・クックのコレクションのキュレーター、
そして女王の絵画のキュレーターを務めました。
その次の持ち主は、、、
フランシス・クック、モンセラーテの第1子爵 - Wikipedia
サー・フランシス・クック(1817年 - 1901年)、
モンセラーテの子爵、ダウティ・ハウスのクック男爵、古物学会のメンバーでした。
彼は非常に有名で裕福な収集家でイギリスで最も裕福な5人のうちの1人でした。
彼は絵画や宝石を収集し、彼の絵画の一部は現在、公共及び私的コレクションにあります。
その後、彼の次男であるウィンダム・フランシス・クック(1860年 - 1905年)が
1905年に亡くなるまで宝石のコレクションを引き継ぎました。
ウィンダム・フランシス・クックの死後、
この貴重なコレクションは1925年7月にクリスティーズで売却されました。
この競売によりコレクションからの多くのカメオは、
サンジョルジコレクション、メトロポリタン美術館、ゲティ美術館や
個人コレクション等に収められました。
例えば:
1 - このヘラクレスとディオメデスのカメオは
元々ロレンツォ・デ・メディチ(1449年 - 1492年)のコレクションにあったものですが、
その後、サー・ジョン・チャールズ・ロビンソン、
そしてウィンダム・フランシス・クックのものとなり、
競売を経て現在はゲティ美術館にあります。
2 - アウロラが自らの戦車を運転するカメオはウィンダム・フランシス・クックのコレクションから
競売を経て現在、メトロポリタン美術館に収蔵されています。
3 - クラウディウス帝のカメオは2004年にクリスティーズによって32.1万ドルで売却されたことがわかっています。
4 - ユリウス=クラウディウス朝の王子のカメオは、
ブレナム宮殿のジョージ・スペンサー第4代マールバラ公(1739年 - 1817年)の有名なコレクションにありました。
その後、このカメオはウィンダム・フランシス・クックのものとなり、
2019年にクリスティーズで35万ドルで売却されました。
元々はカメオのみの状態であったものを
彼らが着用するために金の指輪にセットされたのでしょう。
彼らのコレクションは当時、最も有名な宝石コレクションの一つで憧れの的でした。
このように過去の所有主がわかっていて、
更にそれが著名な人物のものであった場合は
アンティークジュエリーの中で入手も大変難しくなりますので、
このような品物を扱うことが出来た事を嬉しく思っています。
このような貴重なカメオが市場に出てくるのは滅多にないことですので、
是非、この機会にお問い合わせくださいませ。