恐らく世界でも数個しか存在していないと思われる
大変珍しいモデルの13世紀のリングです。
今から数十年前、
ヨーロッパの市場には古の極めて珍しいジュエリーがかろうじて存在していましたが、
現代では多くのジュエリーが収集家や美術館の元にあり、
このような珍しいモデルのリングは探すのが極めて困難になってきています。
このリングはイギリスで古のリングのコレクションを
長年されていた方から買い付けたものです。
三日月型のベゼルにセットされているのはサファイヤ、
周囲を飾る小さな4つの石はエメラルドです。
中央のベゼルのサファイヤにはえぐられたような跡がありますが、
これは中世のサファイヤによく見られる特徴の一つです。
なぜ、えぐられているかですが、
中世において宝石には本当に魔力があると信じられていました、
特にサファイヤは神への祈りを届ける神聖な力があると信じられており、
中世の絵画にもサファイヤの指輪をはめた司祭や王侯貴族達が神へ祈りをささげる姿が描かれています。
このようにサファイヤがえぐられているのは、
恐らく、石の不純物を取り除くことで、
石をよりピュアな状態にして、石の力を最大限引き出せるようにしてから
指輪にセットすることが大切だったからだと考えられます。
また三日月のデザインの中世のリングは大変珍しいものです。
三日月型のリングの実物を見たのは数十年間で2個目になります、
資料でも数個ほどしか目にしたことがありません。
ベゼルの周囲を小さな石が囲んでいるのもとても珍しい装飾です。
資料では見たことがありますが、
実物を手にするのは初めてです。
また、このリングはコンディションが完璧であるのも素晴らしいです。
石は全てオリジナルでリングも壊れておらず、
多くの方に身につけて頂けるサイズです。
1 大変希少なモデルであること
2 石がオリジナルであること
3 コンディションが良いこと
4 身につけられるサイズであること
この全ての条件を揃えた中世のリングは滅多にありません。
中世の作品は現存数が他の年代に比べて極めて少なく非常に稀になりますが、
それには訳があり、当時、古代ローマ時代のあらゆる戦乱の影響でフランスには全く十分な金がありませんでした、
金貨の流通は8世紀に終わり13世紀に金が十字軍によってもたらされるまで止まっていました。
川から僅かな金が採れるものの、王でさえ金を入手するのは非常に困難だった為です。
そして貴重な金は権力のあった教会へもたらされました。
このような指輪は高位の聖職者のみが所有でき聖職者の死後は棺に共におさめられますが、
フランス革命時に大きな教会や聖堂などは破壊され、このような指輪は殆ど残っていません。
又は19世紀に小さな教会は売りに出された為に、
その教会にあった指輪などもプライベートコレクションとなっているでしょう、
他にもいろいろな理由があり、現存数が少ないのです。
フープには彫金が施されていますが、
この彫金も中世のリングに見られるデザインです。
このリングの類似作品が British Rings という本に掲載されています。
本に掲載されているのはベゼルがタルト型と呼ばれるデザインのタイプです。
タルト型と三日月型ではタルト型の方が現存数が多く、今回ご紹介している三日月型は極めて珍しいです。
三日月型リングの実物を見たのは十数年間で2個目になり、
資料にも僅かに掲載されています。
本に掲載されているタルト型のベゼルにはサファイヤがセットされていますが、
このサファイヤにもえぐられた跡が見られます。
周囲には小さな石がセットされていますが、
いくつか失われているのがわかります。
中世のリングは通常は細く繊細な作りのものが多いので、
このように石が外れていたり、指輪が壊れているのことは通常の状態になります。
以下は発掘された中世のリングの資料になりますが、
このように殆どが壊れている状態で発掘されていることがわかります。
通常は上記のような着用するこができないコンディションになります。
British Ringsには有名なリングも掲載されています。
左上の大きなサファイヤのリングは
こちらはヨークミンスター大聖堂が所有している下記のリングです。
このリングはヨークで1215年〜1255年間に司祭であったWalter de Grayが身につけていたものです。
今回ご紹介している三日月型のリングと同じように周囲を小さな石が飾っているタイプで
年代も同じく13世紀であることがわかります。
ヨーク大聖堂に収蔵されているリングではありますが、石が一つ失われています。
完璧なコンディションの中世のリングは大変希少なものになります。
繊細な作りのリングですし、中世の希少な美術品ですので
日常生活で身につけるというよりは
コレクション用のリングになります。