興味深い歴史を秘めた、17世紀の美しい細密画のメダイヨンをご紹介いたします。

このメダイヨンに描かれているのはトゥルゼル侯爵イヴ・ダレーグル(1653-1733年 3月3日)です。


繊細で優しい筆致で描かれた細密画は、当時の高い技術を持つ職人によって

描かれた事が伝わってくるクオリティです。

片面がイブ・ダレータル、もう片面は貴族である彼の紋章が描かれています。


人物が描かれた細密画の場合、

今回のように、その人物が誰かが分かるのは大変稀なことです、

多くの場合は容姿から誰であるかを知る事は難しく、

また、紋章のような手がかりもないことが殆どです、

もし、紋章が描いてあっても、それがどの家の紋章であるかを調べ当てるのは大変なことですが、

例えば、品物が製作された年代や、品物のクオリティなども参考になる場合があり、

そういった細かな手がかりを元に、

時には紋章を研究されている方の意見を聞くなどして分かる事があります。


そのようにして、細密画に描かれているのが誰であるのか分かった時に、

品物が再び目覚めたような深い感動を覚えます。




このメダイヨンに描かれているイブ・ダレーグルは多くの戦に参加し、

最後はフランス陸軍元帥、精霊勲章の騎士にまで上り詰めた人物でした。





参考写真　モンテギュ城


イブはアレーグル家第5代当主でトゥルゼル侯爵であると同時に他の領地も納めており、

モンテギュ、サン=フルール・ル・シャテル、オルーズ及び、

オービュッソンの領主でフロジャック伯爵でもありました。






参考写真　ルイ　14世の鎧



幾多の戦をくぐり抜けたイヴ・ダレーグルの大まかな戦歴をまとめます。


イブは仏蘭戦争、九年戦争、スペイン継承戦争とルイ14 世の全ての戦に参戦し、

1679年5月から1693年4月まで王立竜騎兵連隊大佐を務め、

リンブルフ、コンデ、バレンシエンヌ、カンブレー、ルクセンブルクの各包囲戦と、

ステンケルクの戦いに参加しています。

ステンケルクの戦いにおいて彼はマスケットの銃弾により腕を負傷しましたが、

 1693年3月にはフランス陸軍少将にも任命され1702年1月に中将に昇進しました。



1712年には、9月8日のドゥエー攻略、 10月4日のケノア包囲戦、

そして10月11日のブシャン包囲戦に参加しました。


1706年にサントメール総督に任命、1707年にラングドック副総督に昇進し、

のち1723年にはメス総督に就任します。


1724年にはフランス陸軍元帥に昇進、

すでにマルタの騎士の称号を持っていましたが、

1728年に国王ルイ15世により聖霊勲章の騎士に任命されました。







恐らく、このメダイヨンが作られたのは1960年〜1963年と考えられます。

イブは1690年当時、騎兵准将になり、1693年には陸軍少将となりますが、

細密画に描かれている彼は騎兵准将の鎧を身につけており

陸軍少将のスカーフを身につけていないからです。






裏面には彼の貴族の紋章が描かれています。

貴族の紋章は婚姻により両家の紋章が一つとなっていた為、

複雑な紋章が多いです。

この紋章の場合は、塔と獅子が組み合わさっていますが、

塔はイブ・タレーグルの父方のトゥルゼル家の紋章、

獅子は母方の紋章です。







     


古のトゥルゼル家の塔の紋章

右側は古い蝋に紋章を押して封をした時のものになります。




これらの紋章はトゥルゼル家と結婚した妻の家の紋章を合わせたものです、

左側の塔の部分は一緒ですが、右側は結婚する家により紋章に違いが出ていることが分かります。



鮮やかな色合いの細密画で、実在した人物と貴族の紋章が鮮明に描かれ

17世紀という古い時代のジュエリーながら、

奇跡的に素晴らしいコンディションを保っているメダイヨンです。


ルーブル美術館に17世紀のジュエリーを集めたセクションがありますが、

まさに、そこに飾られているような希少なジュエリーと言えます。