15世紀　結婚指輪　ルビーの三日月　ダイヤモンドのハート　中世ジュエリー

15世紀の美しい結婚指輪をご紹介いたします。

表から見ると厚みのある金の板のような本当にシンプルで素朴な形ですが、

内側には三日月型のルビー、ハート型のダイヤモンド、

そして結婚指輪にふさわしい誓いの文字が刻まれています、

誓いの言葉や宝石をあえて内側に隠すことで、

愛などの目には見えない大切なものを表現した素敵な結婚指輪だと思います。

この指輪の内側に留められているルビーとダイヤモンドですが、

当時、宝石は今よりもずっと手に入れることが難しく希少で高価なものでしたので、

これは中世のこのタイプの結婚指輪としては極めて珍しい装飾です。

中世のリングで文字だけが内側に刻まれているものはありますが、

宝石も内側に留められているものはこのリング以外では数えるほどしか見たことがありません。

金も他の中世のリングに比べると、かなりの厚みと幅があり本当に例外的で贅沢な作りです。

特にダイヤモンドは本当に入手が難しい石でした、

ハート型のダイヤモンドは写真では黒く写っていますが、

これは薄いダイヤモンドがセットされている為です。

(指輪の写真の方向が上下逆さまになっていますが、

これは内側に彫られている文字に合わせて写真の向きを変えて掲載しています。)

内側に一周くるりと彫り込まれている文字は　CY VOUS PLEIST です。

これはフランス語の S'IL VOUS PLAIT ですが、

この綴りの違いは当時は識字率が低く、普及している辞書なども勿論なく、

言葉は文字よりも音が優先していた時代の為、

古いフランス語であり、

多くの場合、文字が書ける者は、

思うままに綴りを書いていたことに関係します。

内側に宝石が留められた例外的に美しいリングは

夫から妻に贈られたものだと思われます。

綴られている文字の意味合いですが、

もし宜しければ私の妻になってくれませんか?

もし宜しければ私の愛を受け取ってくれませんか?

というような控えめな表現の愛のニュアンスが込められています。

イメージ

ルーブル美術館蔵　タペストリー　1400年頃

ハートを差し出す男性

また、留められている宝石の種類、形にも意味があったと思いますが、

ダイヤモンドのハートは、そのまま変わらぬ愛の心を表しているのでしょう。

リングの内側にダイヤモンドのハートを留めることで

自分の変わらぬ愛を相手に捧げたのだと思います。

ルビーの三日月ですが、三日月型のベゼルの中世のリングは

デザインのタイプとして存在しますので、

恐らく、三日月の形は中世当時、何か重要な意味を示すモチーフだったのだと思います。

そして、CY VOUS PLEIST (S'IL VOUS PLAIT) 以外にも文字が刻まれています。

この二つのアルファベット　M と　G は

結婚をする2人の名前の頭文字だと思います。

M と G は鎖のような彫りで繋がれており、

(赤と青でその彫りをなぞっています)

これは結婚する二人の絆を表したかったのでしょう。

Mは女性名でマルグリット、Gは男性名でジェロームなどだと思います。

また、M の文字のごく一部にホワイトエナメルが残っているのが確認できますが、

これはオリジナルのエナメルが残っているものです、

当時は彫り込んだ文字にエナメルが施されていましたが、

年代の古さからほぼ全て失われているのが普通ですので、

僅かでも大変希少なオリジナルエナメルです。

また、更に、ルビーとダイヤモンドの両隣には、

それぞれアルファベットが刻まれており、これはイニシャルだと思います。

ですが、どのアルファベットかは分かっておりません。

面白いのは、CY VOUS PLEIST (S'IL VOUS PLAIT) の字と彫りのタッチが違いますので、

この二つのイニシャルは後で彫られたものだと考えられます、

理由としては、この指輪の元々の持ち主の子供が結婚の際に指輪を引き継いて

自分と結婚相手のイニシャルを彫り込んだ、などが考えられます。

他にも理由はあると思いますが、そういった事を想像できるのも

アンティークの楽しさの一つだと思います。