
ラファエル前派の絵画に出てくる女性が身につけていそうな
素晴らしいホルバネイスクペンダント。
19世紀の作品ですが、ルネサンスのジュエリーに影響を受けた作品で
ホルバネイスクと呼ばれるタイプのデザインです。
色とりどりの大粒の宝石とエナメルで鮮やかに飾られていますが、
実際に身につけるとシックで全く嫌味がなく、派手さを感じさせないところにも
アンティークジュエリー の素晴らしさを感じます。
実物の眩いばかりの息を飲むような美しさは画像では全く表現できていない作品です。


〜 ホルバインのジュエリーデッサン 〜
ホルバネイスクジュエリーとは、15世紀のハンス・ホルバインによる絵画や
ジュエリー のデザイン画に着想を得たものと言われており1860年頃に流行しています。
ハンス・ホルバインが描いた貴婦人の肖像が身につけていたジュエリーはもちろん、
ホルバイン以外でもラファエロやクラナッハの描いた絵画にも
デザインとしての参考になるものが沢山あり、多くのジュエラーがホルバネイスクペンダント含む、
ネオルネサンス様式の作品を作っています。
エナメルの仕事は大変繊細で、
まるで細い筆で黒地のエナメルの上に金色のエナメルで極細の模様がびっしり描かれたようで、
所々、小さな点のような赤いエナメルも施されており、それぞれを目で追うのが楽しいです。
赤、青、緑の8つの小さなクロスのような模様がギロッシュエナメルで表現され
金色の地模様が透けて見えており金色に輝いています。
そしてそれぞれのクロスを繋ぐように白く細いエナメルが外枠を丸く囲んでいます。

色鮮やかなエナメルに合わせて留められた宝石は、
どの石もクオリティが高く大粒で、
オールドカットダイヤモンドは泉のように美しい光を放っています、
鑑定をさせたところ、
中央の石は非加熱のシャム(昔のタイ)のイエローサファイヤで大変珍しい石だということです、
やや緑がかった独特の色合いの石で綺麗に輝き、約2ctの大きさがあります。
ルビーは非加熱のビルマンルビーで深く明るい赤い光に溢れています。
下部には大きな天然真珠が小さなルビー と共に揺れる様についており、それに合わせるように
バチカンにも大きなビルマンルビーが留められており贅沢ですね。
是非、ページ一番下の動画で実物の雰囲気をご覧ください。
上部のバチカンと下部の天然真珠の稼働部分にそれぞれエナメルのダメージはありますが、
アンティークとして通常のダメージですし、
その他の部分はほぼダメージ無しという素晴らしいコンディションの良さです。
中央のシャムのイエローサファイヤは
落ち着いた緑がかった渋い黄色をしており瑞々しい輝きを放っています、
この石は左下の部分がはっきり緑がかっている珍しい石で、
恐らくこのエナメルの色合いに合わせて選ばれた石かと思うと、
自然の石の面白さを生かしたハーモニーに職人のセンスの良さを感じます。
このイエローサファイヤ部分はドームのように若干盛り上がり、立体感のある作りになっています。
美しいのは表面だけではなく、裏面の植物文様の滑らかな手彫りの彫金も実に見事な出来栄えです
線の一本一本が生き生きとした躍動感に溢れた味わい深い良い彫金で
肖像画に出てくる貴婦人のドレスに施された刺繍のような雰囲気を感じます。
こちらも是非、動画でご覧頂ければと思います。
美しいエナメル細工に加えて全体的に大粒の宝石が使われており、
手に持って動かすとキラキラと眩しいのですが、
同色のリボンや太めのチェーンで身につけると
しっくりと馴染みますので、派手ではなくシックで落ち着いた美しさに溢れています。
ホルバネイスクペンダントは
比較的大きなカボッションのガーネットが中央に使われていることが多く、
それ以外の宝石が使われているものは希少です、
ホルバネイスクペンダントは今までに数個扱ってきましたが、
その中でも一番美しいお品かもしれません。

ホルバネイスクペンダント 参考例
ホルバネイスクペンダントは1865年くらいに高級なジュエリーとして制作され始め、
ハンコックやロバート・フィリップス、ジョン・ブログデン等のジュエラーにより
顧客へと紹介されました。

Sir Thomas Gresley and his wife Katherine Walsingham, c.1574
一つの可能性としてですが、このペンダントがホルバネイスクペンダントの元だとも言われています。
宝石が非加熱であることを示す鑑定書付