紀元前2世紀 インタリオ リング 雄鶏に扮した軍神マルス
ヨーロッパの古代美術のディーラーや、10代から古代インタリオのコレクションをしていた専門家との
つながりで、数え切れない程の沢山のインタリオを10数年の間に見てきましたが、
このリングにセットされているインタリオのモチーフを見るのは、
私も他のディーラーさん達も初めてですし、
珍しいという言葉では語れない程の飛び抜けた希少性を持つインタリオです。
しかも、ただ単に珍しいだけではなく、想像力を刺激してくるような、
古代のロマンに溢れた面白みのあるインタリオで感動しています。
このインタリオを初めて見た時に、石の表面を細かな彫りの線が一本一本複雑に走っているのが
感じられ、中央には丸い彫りも見られ、希少なモチーフを彫っていることが一目で分かり、
一体何が彫られているのか?と、すぐに粘土に押して彫りを確かめたい衝動にかられました。
粘土に押して見ると、、、、、
なんと ! 軍神マルスが雄鶏に姿を変え、兜、槍、盾で武装しているモチーフが現われ、
ルーペで覗きながら、細かな彫りの美しさ、モチーフの珍しさ、独創性に感動してしまいました !
どちらかというと地味で派手ではない古代インタリオの魅力はなかなかわかりにくく、
想像力を働かせなければ理解できない美しさが宿っていますが、
古代インタリオというものはマニアックな分野の芸術ではなく、ルーブル美術館や、
フランス王室の財宝を収めたキャビネ・ド・メダイユにも収められている芸術分野で専門書も沢山発行されていますし、
指輪としてではなくても、古代のインタリオは中世の教会に飾られた宝物や、ルネサンス時代の家具、18世紀の彫金を駆使した小箱等にもはめ込まれたりしており、まさに、時を超えて愛でられてきた世界最小の彫刻芸術作品なのです。
このインタリオの彫りはイタリックスタイルで、紀元前2世紀頃のとても古いインタリオです。
なぜ軍神マルスが雄鶏に姿を変えているか?というのは、雄鶏は古代ギリシャで生まれた闘鶏などもあるように、
強さを表す動物として雄々しい軍神マルスと雄鶏を組み合わせたモチーフのインタリオが彫られたのだと思います。
戦士の指に嵌められた指輪か、戦士の帰りを待つ妻がマルスの加護を祈ってお守りとして身につけたか、
もしくは、闘鶏に参加させる雄鶏の勝利を祈って作らせたか?!(^-^)
想像するだけでもとても楽しいひと時が過ごせます。
写真では拡大されているので、わかりにくいかもしれませんが、
僅か、0.9cm×0.7cmの大きさの固い石に、これだけの彫りを施されているのは驚異的なことです。
小指の爪程の大きさの小さなインタリオを通して
古代人の感性が直接時を超えて伝わってくるような感覚は、何度経験しても感動的です。
この写真は同年代の他のインタリオの資料です。
力強く素晴らしい彫りの鶏と、軍神アテナのアトリビュートである
メデューサの首をセットしたアイギスの丸い盾が彫り込まれていますが、
鶏の表現や、丸い盾の表現の仕方に共通点を感じます。
年代がもっと新しくなると盾の形にも変化がみられます。
そして、当時のそのままのオリジナルのゴールドリングにセットされていますが、
これは、古代人も指に嵌めたリングを自分も身につけることができるという一体感が持てるので
どんな人が身につけていたのであろうかと想像する楽しみが増しますし、
気が遠くなるような長い年月を経たゴールドのマットな美しさは格別です。
ベゼルに両脇には金色の玉を4つ飾っています。
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