17世紀 memento mori メメントモリ リング
人間の頭骨をモチーフにした、一見恐ろしい装飾のメメントモリのリングですが、実はこのリングに込められた想いは深い愛そのものなのです。
メメントモリ、それは「自分がいつか死ぬ事を忘れてはならない」という意味のラテン語の警句です。この思想は古代より始まり、主に中世ヨーロッパで多く広まりました。
メメントモリの思想と意味は一つに限定されることはありませんでした。大きく分けるとこのようになります。
1,人間はいつか死ぬ運命、だから後悔しないように今を思い切り楽しむ。
2,人間はいつか死ぬ運命、だから富や快楽に執着せず心穏やかに神に祈りを捧げる。
いつか天に召される事を受け入れた時に、どのような心で生きるのか、それらは時代や個人の思いによって受け止め方が違っていたのです。
メメントモリの思想に影響を受けた芸術作品や装飾品が残っていますが、迫り来る死と共に愛情も表現される事がありました。
当時は愛と死という二つの想いは、殆ど分かちがたい程に一体化されており、それがメメントモリの「死を忘れるな」の思想を表しているのか、現世に存在しなくなった愛する人への想いを表したのか、はっきり区別をさせることが出来ない場合があります。
この指輪の素晴らしさ、美しさをお伝えするための説明が少し長くなりますので、各写真とともに少しづつご説明させて頂きます。
写真と説明がリンクしない場合もありますが、写真は写真で見て頂き、説明は説明で読んで頂けると幸いです(^-^)
例えば、この指輪には死を連想させる頭骨がデザインに選ばれていますが、この指輪の完成度、装飾、素材、裏面にセットされている髪の毛を良く見ると、決してメメントモリの思想だけを記した指輪ではない事が分かります。
この指輪の完成度は素晴らしい物があります、当時、非常に貴重であったダイヤモンドが目と鼻にセットされています。
そして、シャンクの花のデザイン、これは天国と再生を意味します。フープは骨の造形を用いた凝った装飾です。
裏面には髪の毛がセットされ、髪の毛はガラスではなく薄くカットしたダイヤモンドで守られているのです。。。
ダイヤモンドを使った華やかな作り、天国と再生を意味する花、髪の毛がセットされている事から、この指輪が何の目的の為に作られたかを考えると、この指輪の注文主が深く愛した人物を亡くした悲しみ癒すために、作らせた指輪だということがわかります。
深い悲しみに沈んだ注文主は、最愛の人物を想ってこの指輪を作らせました。
最愛の人物が天国で心穏やかに過ごせている事を願い、又は最後の審判の日に良き行いをした者として復活する事を信じ、最愛の人物の髪の毛を収めたこの美しい指輪を作らせて身に着ける事で、自分の心の救いと希望としたのです。
このような背景が分かると、この骸骨のデザインを恐ろしく感じるよりも、時を超えて残っている深い愛に心動かされませんか?
ダイヤモンドの輝き、天国と再生の花、そしてダイヤモンドで大切に守られた髪の毛、、、全ては愛ゆえに考えられた装飾なのです。
いかに、注文主に髪の毛の人物が深く愛されていたかが良くわかります。
そして、経年変化にも注目したいと思います。
この指輪の本来の姿は白いエナメルが全面に施されていた姿で、ベゼルもショルダーもフープも全面が白かった筈です、そして凹みには黒いエナメルが少し残っています。今は長い時を生きて来た経年変化により、白いエナメルがところどころ失われています。
失われたエナメルから見える黄金の輝きが、まるで死の内側から再生する魂の光のように感じてしまいます。
この指輪は現存するメメントモリの指輪の中でも、最上位の指輪の一つでしょう。
17世紀のオランダの作品であるというのも非常に珍しいです。
このような指輪は人々の感情に訴えかける力が強い指輪ですから、大切にされ、その指輪の由来と共に長く残る事が多く、指輪のコレクターにも好まれる分野のジュエリーです。
このようなジュエリーで、弔いの指輪というものがありました。弔いの指輪とは自分が天へ召された時に配った指輪の事です。この習慣は少なくとも14世紀にさかのぼります。そして16世紀半ばにはこの習慣は各地に広がりました。弔いの指輪の発注と配布は遺言状等に書かれています。こうした指輪を受け取る人々のリストには時に多くの人数が記され、そのための出費もかなりの額に上ったようです。
17世紀のイギリスの官僚、サミュエル・ピープスは弔いの指輪を受けとった時の当時の様子を日記に記しています
「その家はジェームズ・テンプレの埋葬に立ち会う人々でごった返していた。5日ほど前に浴槽で亡くなったようだ。ここでとてもいい指輪をいただいた。家に帰ったらすぐに妻に渡すつもりだ。」
弔いの指輪には多くの場合、故人の髪の毛が含まれています。それはベゼルの中だったり、編み紐に入って輪を囲んでいたり、またリングの中でガラスの蓋を持つ小さな箱にしまわれたりしました。
〜この指輪はエナメルが失われている事を除いて、コンディションは非常に良いです。エナメルのダメージも17世紀の作品である事を考えると通常のダメージですから全く気にする必要はありませんし、これほどの指輪ですから、ダメージを気にしてはいけません。貴重な作品ですからサイズ変更もしてはいけません。
ジュエリーの中でも指輪は特に持ち主の想いと強くリンクする装飾品です。
人の強い想いを込めた、身を飾る為だけではないジュエリーの良さとは、本来の持ち主の想いを想像し、時を超えて共感する事にあるのです。この小さな指輪は古の愛の証として数百年の時を経てきたのです、これからもずっと残っていくことを願います。
これほどのメメントモリの指輪をご紹介出来る事が出来てとても幸せです。
こういう作品の存在をご紹介し、素晴らしさをお伝えする為に、この仕事をしているといっても良いと思います。
このような素晴らしい指輪に次に出会えるのは、数十年単位で考えても、あるかないか、というところだと思います。
詳しいサイズは後日掲載致します。〜