ヴィーナスとキューピッド 野菜 カメオ 17世紀後期〜18世紀初期
ヴィーナスとクピドがモチーフの印象的なカメオです、石は柔らかな乳白色〜灰色、薄いピンク色へとグラデーションが優しいアゲート、独特の優しい色合いが良い雰囲気のあるカメオです。ヴィーナスとカメオのモチーフは芸術作品にとても良く使われるモチーフですが、このカメオのヴィーナスとクピドは他の作品には見られないとても珍しい興味深い特徴を備えているのです。
次ページから詳しく説明します。
このカメオが何故珍しく興味深いかは、まずヴィーナスがヘレニズム風の衣服を身に着けていること、通常ヴィーナスは裸で表現されます。どうして、このカメオのヴィーナスが衣服を身に着けているのかですが、それにはおそらく、このカメオが作られた年代に生きたルイ14世の妻マダム・ド・マントノンの趣向が関係していると思います。
マダム・ド・マントノンは良家出身の財産のない子女のために聖ルイ王立学校を設立し、教育に力をいれるなど強い道徳心を持った女性でした。
彼女は芸術作品に女性の裸が表現されることすらも好まなかった為に、この時代のタピストリーなどのヴィーナスは衣服を身に着けている事があります。
例えば、、、
この18世紀のタピストリー、フランスのブーバンセ城(Ch?teau de La Bourbansais)にある作品です。
このタピはパリスの審判のタピで、パリスがヴィーナスにリンゴを渡していますが、ヴィーナスはきっちりと衣服を身にまとっています。
当時、宮廷の趣向が芸術作品に反映されることは当たり前でしたから、王妃や寵姫の趣向は非常に重要視されました。
そして次に面白いのが、ヴィーナスがクピドに野菜!?を与えていることです。
ヴィーナスがクピドに与えるのは弓矢やリンゴだったり、いろいろありますが、野菜は初めてみました(笑)
当時の彫刻師達は、カメオを彫るときに参考になるモチーフを本物の彫刻や絵画、コインなどに探しました。ですから、野菜を彫る、というアイデアがいきなり浮かんだのではなく、野菜にたどり着くまでに何か理由があった筈なのです。
ヴィーナスとクピドに野菜が出て来る物語があるのかもしれませんが、あったとしても有名ではないと思うので、良くわかりません。
もしくは、物語性のある横長のレリーフなどの一部にこのような野菜を使ったシーンがあったのかもしれません。レリーフの印象的なシーンを選んでカメオのモチーフとして選ぶ事もあったからです。
それか、このヴィーナスとクピドという古代のモチーフに、当時の芸術趣向にあわせて衣服を着せて、注文主の希望で野菜を彫り込んだのかもしれません。
いずれにしても、とても面白いカメオです。
バランスに優れた構図で、一枚の絵のような雰囲気がとても美しいです。
斜め横。
真横。
裏面。
優しい色合いの美しいカメオ。
コンディションも大変良く、フレームもシンプルですがカメオに良くあったフレームです。