エナメル細密画 聖書より「リベカとエリゼエル」
この細密画が数百個のアンティークの中の一つとして混ざっていた場合、足を止めて注目する人より、注目しない人の方が多いかもしれません。
いろいろなアンティークを見ていると、知らないモチーフや題材などが現れるのでその度に調べるのですが、アンティークは種類も素材も題材も無限にありますから、いつも何かに驚き感動する事が多く、私はそこに情熱と喜びを見いだしています。
この細密画は女神や貴婦人が大きく描かれているわけではなく人間や動物が細かく描かれています、女性が何かを男性に与えていてラクダも描かれていますね、絵はとても美しいけどインパクトがやや弱いのでこの細密画から立ち去ってしまう方もいらっしゃると思いますが、そこでちょっと立ち止まって欲しいと思います。
実はこの作品はエナメル作品としての絵の美しさはもちろん、とても珍しくとても古い特別なエナメル細密画なのです。
何が珍しいのか、何故立ち止まって欲しいのか、お話したいと思います☆

この絵画はマドリッドのプラド美術館にあるムリーリョ作の「リベカとエリゼエル」です。
人物が数人描かれていて、女性が男性に何かを与えて、遠くの方には小さくらくだも描かれていますね、このエナメル細密画と共通点が沢山ありますから、何か関係がありそうです。
では、この絵画の題材の「リベカとエリゼエル」とは何なのか調べてみましょう。

芸術家達が非常によく取り入れる題材の一つに聖書があります。
聖書の存在は西洋芸術の源泉といっても過言ではなく、もし、聖書が存在しなかったら今日の西洋芸術は全く違ったものになっていたと思います。
おそらく、この細密画も聖書を題材にしたものかもしれない、、、ということで調べた結果、「リベカとエリゼエル」が聖書の一説である事がわかりました。
もし、聖書の「リベカとエリゼエル」の話を見つけることが出来なかったら、この細密画が一体何であったのかを知る事が出来ずに「何かの絵の綺麗なエナメル」で終わってしまって何も広がらなかったと思います。
芸術家達が題材として取り入れる聖書を知ることは、西洋芸術を理解する為の羅針盤のような役割を果たしますから、そのような事も是非頭の片隅に置いて頂ければと思います。
それではエナメル細密画の細部を見てみましょう☆

男性がエリゼエル、女性がリベカです。
エリゼエルは主人アブラハムの息子イサクの花嫁を探す旅の途中で訪れた町で、リベカと出会います。
リベカは見知らぬ旅人とラクダの為に井戸から何度も水を汲み与える心優しい女性でした。
エリゼエルは彼女こそ花嫁に相応しいとイサクの話をします、その後、リベカはイサクの花嫁になる事を承知しイサクの元へ嫁ぐというシーンです。
聖書には微妙な言い回しの違いがありますので、興味のある方はいろいろ調べてみてくださいね。
エナメル細密画として、優しい色合いで繊細なタッチで細かく丁寧に描かれていますね、大変美しいエナメル細密画です。

井戸から水瓶で水を組む女性達、この細密画は全体的に繊細な表現で描かれています。

旅の途中のラクダ達、、、

しゃがんでやすむラクダ、、、

遠くには街並、、、

このエナメル細密画は基本的に柔らかく繊細な色合いで表現されていますが、遠近感を出すために、手前は濃いめに、遠くは薄めの色合いで描かれています。エリゼエルとリベカの足下に影が表現されているのも細密画に深みを出していますね。
この細密画はコンディションは大変良いですが、1700年頃の古くて貴重な作品です。
こうして見るとエナメルのブローチのように見えます、しかしこれはジュエリーとして残っていたわけではなく、裏には何もない単体のエナメル細密画として残っていました。
家具や小箱にエナメル細密画やカメオを装飾としてはめ込むことがあるので、これもはめ込まれていた装飾のパーツだと思います。
聖書のごくワンシーンなので、このエナメル作品には他の聖書のシーンを表したおそろいのパーツがあったと考えるのが自然ですね。
今から約300年前、この作品とおそろいのエナメル細密画で表現された壮大な聖書のストーリーが、素晴らしい家具などの装飾の役目を果たしていたことでしょう。
このエナメル作品はそんなパーツの一つなのです。

斜め横。